眼が見えなくて2週間なんも出来なかった話し①

Suika with C

2021年04月20日 15:15

朝、ベッドで目を開けたら「なんも見えねぇ!』という経験をしたことがあるだろうか?




7年前の夏、私は高知の清流・吉野川にいた。自身の誕生日祝いとしてmont-bellの主催する「日本一の激流吉野川ラフティングツアー」に参加するためだ。平日というのもあって8人乗りのラフトボートには妻と2人だけだったが(mont-bell店員さんが舵取り)、その日は台風明けで吉野川の水量は多く、「日本一の暴れ川」の名に偽りは無かった。声を掛け合いながら迫り来る急流ポイントへ果敢にアタック!鬼気迫る顔ながらも、それはそれは見事なファイトだった。



モンベルアウトドアチャレンジ
https://event.montbell.jp/sp/plan/list.php?cid=12&gid=19


数々の急流ポイントをこなしたあとは、緩やかな流れのところで大岩からのダイブやカヌーに乗ったりと楽しい時間を過ごして、mont-bellのベースに戻りシャワーを浴びて夕方に解散した。




休暇村南淡路キャンプ場


その日は兵庫県淡路島の『休暇村南淡路』に宿を取っていた。この休暇村はサイトが海の目の前にあり、今では予約もなかなか取れない人気のキャンプ場を併設しているが、当時の私は「真夏にキャンプなどしてられっかよっ!」だったので、朝・夕とも南あわじの新鮮な地魚が並ぶ「豪華海鮮ビュッフェ付プラン」をとても楽しみにウキウキしながら車を走らせていた。



休暇村南淡路
https://www.qkamura.or.jp/sp/awaji/



ところが運転中に視界がやけに霞む。「まぁプールに入ったあとに目が霞むヤツと同じだな···」と何度も目をこすりながら走っていたが、淡路島にたどり着いた頃には、とても車を運転するような状態ではなくなっていた。




ホテル前の駐車場に車を停めて、妻の肩につかまりながらチェックイン。誰が見ても『盲目のお客さん』で、事実ほとんど見えていなかった。部屋に行くと早速妻は宿自慢の『展望露天風呂』に行ってくると言う。瀬戸内海の夕陽を見ながらの入浴はきっと最高だろう。それを想像したら「行かないで〜」と妻を止めるコトはできなかった。

妻が部屋に戻ったらおまちかねの「豪華海鮮ビュッフェ」の時間だ。妻に手をひかれながらダイニングへ。妻がお皿にいろいろ取ってきてくれて、私はそれを口に運ぶだけ。食事において「視覚」は重要な「美味しさ」の1つなんだなと改めて思わせる時間だった。






翌朝、起きた時に衝撃が走った。昨日までは白く濃いモヤがかかった感じだけど、目の前に人がいるとか、ここは窓、ここは扉、とぼんやり見えていたのだが、この時は「衝撃」というよりも「恐怖」の方が勝っていたかもしれない。墨汁がダラ〜と垂れているような、黒い液状のモノが私の視界を完全に奪っていた。


「うわ〜なんも見えねえええっ!」



今まで生きてきた中で1番のパニック状態だったかもしれない。これが自宅ならまだしも、ここは兵庫県淡路島の田舎町。どうすればいいのか考えがまとまるまで数分かかった。



「そうだ、まずは『医者』だ。」

とはいえ、こんな島の片隅に病院は無く、まして『眼科医』などいるハズも無い。妻がスマホで調べると病院はここ南淡路市から3〜40km離れた島の中心部「洲本市」にあるコトがわかった。



「よし、行こう!」

私は視力の95%を失っていたが、右目の右下に5%ほどの視力が残されていた。もちろん信号は見えないし前方の車は見えないが、運転席に座るとかろうじてセンターラインがぼんやり見えている。私は妻に「よし、今からおまえは『人間カーナビ』になって道路状況を正確に俺に伝えてくれ。『海がキレイだね♡』とか『美味しそうな蕎麦屋さんがあるよ!』とかの情報は要らない。前方の車との距離と信号の色を中心に頼む!」


運転免許を持っていない妻にこれ以上のプレッシャーはなかっただろう。目の見えないドライバーが運転する車の助手席に座って、知らない町を30km先の病院まで案内するのだ。私もかすかに見えるセンターラインだけを頼りにアクセルを踏むが、かなりビビっって妻に話しかける口調が荒くなり、道中は怒鳴り合う局面が何度もあった。

島の南西部「南あわじ市」から反対側の「洲本市」までは幸いにも国道28号線の1本道。私はセンターラインで車を走らせる位置を確認しながら、妻は信号と前方の車の距離を私に伝える。「今、前の車ブレーキ踏みました。今、止まりました。」「左側に自転車走っています、あ、いなくなりました。信号『青』です。」。

そうして約30kmの道のりを3時間近くかけて昼頃に洲本市の眼医者に到着。医者から「2〜3日で見えてくると思いますよ〜」と言われたので、近くのマリーナにある高級リゾートホテルにチェックイン。妻は翌日会社出勤だったので、そこから神戸行きのバスに乗り新幹線で1度帰宅、私は丸3日間、妻が買ってくれたコンビニのパンとおにぎり・カップラーメンで、窓からヨットハーバーlの景色もテレビも見えないダブルの部屋で何も語らずに過ごした。



淡路島・海のホテル島花
https://www.shimahana.com/



3日後、東京から妻がやって来た。「いや〜悪かったね。さぁ、帰ろうか。何だったんだろうね、あれ。」と迎えたかったのだが、私の目は墨汁の液がダラダラと垂れたまま。あのヤブ医者め。

仕方なく運転代行の業者が動き出す夜まで待って、私たちと車をもう1度四国に戻り徳島港のフェリー乗り場まで運んでもらい、フェリーの出発は翌朝なので港で一晩を過ごした。フェリー乗船時は、運転者以外車に乗っていることが出来ないのでここが最大の緊張時。乗船コースには誘導員もいるが、まさか「眼が見えないんです〜」とは言えず、なんとかわずかに見えている前の車に煽り運転さながらにピターっとくっついて無事乗船。さぁ、あとは『東京』に着いちまえばどうにかなる!と、ずっと何も見えないまま太平洋の海原を丸1日かけて東京の有明港へ向かった。



オーシャン東九フェリー
http://www.cs-cruise.co.jp/my/shikoku/ferry_OTF02.html





後半に続きます。


眼が見えなくて2週間なんも出来なかった話し②
https://seasonbest.naturum.ne.jp/e3409454.html




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